「これが人間であれば、あいつは私よりよい生活をしている、と大いに嫉妬するだろう。しかしナナは嫉妬などしない。ただ背後からゲンゾーに近づき後頭部にラリアットを炸裂させ、自分がその飯を奪うだけの話である」
――町田康『猫にかまけて』
糖分の摂りすぎで頭がぼーっとする。
夕方も近くなってから眠気に負けてベッドに寝転ぶと、障子越しに西日が強烈に差してくる。
チリチリと肌を焼かれている感覚があり、これが妙に気持ちよくて寝てしまう。
一時間ほど経つとまめが大きな声を上げて起こしにきた。ベッドに飛び乗り、わたしを呼ぶ。
しぶしぶ起きあがり、ぷりぷりしながら先導するまめについていく。
食品庫の前で座り、わたしの目を見て、とっておきの甲高い「なーん」を投げてくる。
何やら期待されているので、寝てる人間を起こしたらごはんが出てくるってルールではないよ、と諭す。
不満げに荒れるまめを横目に、わたしは冷凍庫からミントチョコアイスを取り出し、食べた。
眠気がほどける。同時にしまった、また糖分だ、と思う。怠惰な週末。
「卓袱台のうえに原稿用紙を広げ、ニ、三枚も書いただろうか、ふと通り掛かったナナが激怒して卓袱台のうえに飛びのってきて原稿用紙につかみかかり、ぐしゃぐしゃにし、床に叩き落とし、爪と牙を用いてずたずたに引き裂いたのである。
ナナに『字を書くなんて馬鹿なことをしてすみません』と謝ったら、ナナは『こんなことは二度としてはいけないよ』と言いながら廊下の方へ去っていった。
心から反省した自分はずたずたの原稿用紙をごみ箱に捨て清酒を飲んで酔っ払って眠った」
――町田康『猫にかまけて』
今朝は久しぶりにまめを病院に連れていった。
歯とお尻からそれぞれ出血していて心配したけど、結果としては何もなくて安心。
とはいえ、猫エイズキャリアであるまめは、感染症を起こしやすく、腫瘍ができやすい。
いつ何時、介護生活がはじまってもいいようにと毎日シミュレーションしている。
お金はかかるし、手間もかかるし、時間もかかる。そして最期は愛した分だけ、自分が削れる。猫でも亀でもインコでもリスでもウサギでも同じ。
それでもやはり動物のいる生活は楽しくて尊い。覚悟を決めるために先人達のエッセイをよく読む。
今日の一冊は、ワープホールブックスで薦められた町田康さんの『猫にかまけて』。笑って泣いた。最高。
「いったいどうやってそんな超能力みたいなことができるかというと、やり方は実に簡単で、嫌なことがあった場所からちょらちょら駆けだし、数メートル行ったところで立ち止まって背中を舐め、手足を舐める。
ただそれだけでねこのなかではたったいま起こった嫌なことがなかったことになってしまうのである」
――町田康『猫にかまけて』