「いや、もっと完璧に仕上げたかったんですよ。でも素材が削れちゃうと限界があって」
ピカピカの浴室の中でその人は言った。自分の中の合格点に届かなかったらしく、少し悔しそうである。
わたしからすれば満点も満点。とても自分ではできないところまで曇りなくピカピカにしてくれた。
クリーニングスタッフさんを見送る頃には、抱いていた罪悪感は溶けるように消えていた。
毎年八月は総括の季節。
九月生まれのわたしは、ひとつ年齢を重ねる前に、その年やり残したことをぎゅーっと詰める癖がある。
三十七歳の今年は、家の中の整理をコツコツ続けている。
家にきた友人や後輩に物を譲ったり、しっくりきていなかった家具や洋服は思い切って処分したり。その上で買い替えてみたり。
そんな整理整頓の大物に浴室が控えていたのだけど、妙に複雑な排水路の構造とか、開かずの浴槽エプロンのことなどを思うとどんどん憂鬱になっていった。
家事をひとに任せるのは、自分の至らなさを晒すようで抵抗がある。
だけど背に腹は変えられない。あの浴室は面倒臭すぎる! ということで、思い切って外注してみたのだった。
結果はよかった。クリーニング屋さんが職人技を駆使するあいだに、わたしは押し入れと食器棚の整理をした。
とても気持ちがいい。効率もいい。それでいいのだとようやく思えた。
人を家に入れる、至らないところを晒す、ヘルプを出す、サービスを依頼する。
簡単なようで難しいと思うのはわたしだけ? これができるようになると、生きていく上で少しだけ安心。
心の中でスタンプカードのマス目をひとつ埋めた。