「この本持ってます。続編あるんですね、買います」
「妻が買ってこいと」
「弟さん、失踪されたんですよね。大丈夫です?」
「応援してます」
「今年も出展されてないかなと探してたんです」
「とりあえず全巻」
無名の一個人の日記で、そもそも著者名すら出していない本に、見知らぬ人たちが声をかけてくれる。
膨大に溜まっていく日々の記録を、本の形にしてひとに分けたら少しは楽になるかしら、と、きぐう編集室をはじめて三年目。文学フリマ東京に出店するのは三度目だ。
校正作業が四回転を越えるあたりで毎回つらくて後悔するけれど、出してみた後はつくってよかったなぁと思う。毎日のことを書いて、編んで、売る。自分ごとをどんどん他人ごとのようにしていく。その過程に癒される。
「これらはシリーズですか?」「話はつながってるんですか?」と、聞かれるのも面白かった。「一人の人の人生なのでつながって……いますね。たしかにシリーズですね」とへらへら答える。
このよくわからない趣味のおかげで、思わぬ声がけをもらい、思わぬつながりを得て、前に進んでいく。今年はなぜか大学生ぐらいの若い人が何人も買ってくれた。
みんなどんなこと考えるのだろうな。本当に読むのかな。面白いなぁ。捨てるとき重くてちょっと困ったりするのかな。
本の姿をした何かを見送りながら、また一区切りついたなとほっとする。よかったよかった。
さぁお酒でも飲もう。昨晩もひどい飲み方してたけど。