耳を倒したら警戒の合図。見開いた目がこちらの奥を射るような色合いになったら飛びかかる一秒前。
昨晩、帰宅したてのところをまめに襲われ、二日ぶりの理不尽さと痛みに唸った。
まめの噛み癖はどんどんエスカレートしていて、早朝わたしを起こすだけでなく、お腹が空いてもおもちゃで遊びたくても噛むようになった。
「ねぇねぇ!」「ちょっと!」と同じぐらいの感じで噛んでくる。
昨晩のジャンピング噛み噛みはおそらく、「よくも置いていったな。一晩も一人で寝させて。猫様の世話はどうした! 今すぐかまえ!」という怒りの連撃だと思う。
わたしはまめに会いたくて帰ったのでとてもやるせない。
いっそ噛み返して返事がしたいところだけど、口の中が毛だらけになるのも嫌で、毎日ひたすら噛まれている。ときどき「痛いよ、やめてよ」と泣き言を言いながら。
もちろん、猫の飼育本や獣医師によるレクチャー動画などで勉強はしてみている。
それでも「過度な反応をしない」「要求の先回りする」「噛んだ後に要求を叶えない」「叱らない」「飽きるまで待つ」などと、耐える系のハウツーばかりでしつけを前提としない猫にはやはり噛まれるしかないようだ。
最近では牙の感触を感じたら、少しだけ腕をずらしてパジャマの生地だけ噛ませるなどという、拳法技みたいなものまで習得しつつある。
そしてこんな暴君猫だというのに、障子から外をのぞく姿が近所ではそこそこ受け入れられていて、近くの保育園の散歩では「まめちゃん待ち」が園児の楽しみになっているらしい。
そんな話を大家さん先生から聞き、留守の間も「まめってば本当にいい子ね!」という感じだったらしいのでなんだか納得がいかない。
猫が、猫を、かぶっている……。
きっと、まめは自分がどれだけ噛もうと叫ぼうと、わたしという人間がまめを傷つけたり反撃したり世話を放棄したりしないということを、絶対的に信じているのだ。
愛情の足元を見られている。猫の役得かな。
そうして今日もまた、腕枕でぐうぐう寝ながら、当たり前のようにその皮膚を噛んでくるまめに、複雑な感情を抱くのだった。可愛いけど、痛い。