「乗ってきますか?」
「乗ります!」
山形ビエンナーレの会場を出てとぼとぼ歩いていたら、横に止まった車から知った声。
昔、仕事でお世話になったAさんがパートナーさんと車で移動していたようで、窓から声をかけてくれた。
「乗ってきますか?」はもしかして社交辞令かもしれないし、山形駅まではそんなに遠くないけれど、ドアをパッと開けて飛び乗る。
理由はおもしろいから。旅はおもしろい方を選ぶに限る。
Aさん夫妻と車中五分ほど近況報告。その後、今度は仕事仲間のパートナーであるKさんとばったり会う。
Kさんとはなんと新幹線で前後の席だったので、高校生の修学旅行みたいにシート越しにおしゃべりしつつ、自分のおやつ用に買った「ゆべし」をお裾分けした。
(ゆべし、ミルクケーキ、笹かま、くんたま、ビーフジャーキー! 山形のお土産はわたしの心を掴みすぎる)
じっくり話したのはたぶん初めて。面白かった展示や気になる人の話題を交換できて嬉しい。今度はお互いの地元で飲もうと約束する。
一人旅は隙が多くていいなぁと思う。隙があるといろいろなものが入ってくる。
山形ビエンナーレ二日目は、クリエイティブセンター「Q1」で一日過ごした。
とにかくおしゃれな施設で、今年分のおしゃれを全部浴びたなというくらい、ハードもソフトもおしゃれ。
食べ物も企画も売ってるものもおしゃれで、このまま行くとおしゃれに溺れそう……みたいなタイミングで、観たかったパフォーマンスに救われる。
「エチュード」や「リハーサル」、なにかの準備は面白いなぁとしみじみ感じるプログラムで、Q1の空間やそこにいる人の関係がちょっと揺らぐような時間だった。
そのあと作品づくりに関わった砂連尾理さん、伊藤亜紗さん、さえさん、瀬尾夏美さんによるトークも近くで聞いた。
予想外のことが続々起きるなかで、それぞれの役割を半ば仕方なく変えながら本番に辿り着いたという話が印象的で、予定不調和は大事だなと思う。
おしゃれが嫌なのではなくて、誰かの「狙いどおり」が完璧に行き過ぎると息苦しくなるというか辛いのだと思う。空気穴のような「へんてこな偶然」があった方がいいと感じるし、今日出会った作品はまさにそんな仕掛けだった。
ということで、わたしは帰り道にAさんの車に飛び乗ったのだった。
そしてたくさん買い物をして帰途に着く。
何を食べても美味しくて、どこを歩いても感じのいい店に当たる。土産店で興奮したのも久しぶり。山形はすごいまちだった。
千葉はまだ遠いけど、早く大家さん先生に渡したいお土産があるし、まめにもネギにも会いたい。撫で回したい。
もともと一緒に山形巡りをするはずだったHさんからも「どうだった?」とメッセージがきて、あれやこれやと報告する。これぞ土産話という感じ。
帰るところがあり、分け合える先があるから、旅は楽しいのだとしみじみ思う。そして仕事じゃない旅をもっとしたい。