今日は海に行こう。と、ゴミ出しをしながら思った。
カンカン照りの住宅街に、生暖かい風がゆっくり吹き込んできて、磯の気配がした。
そうだ、このまちは海から遠くないのだと久しぶりに思い出して、今日の楽しみにすることにした。
夕方。長めのオンライン会議を何本か終え、頭痛薬を飲み、まめを撫で倒してから自転車に乗る。
辿り着いたのは、ポートタワーの裏にある小さな海浜公園。過ごしやすいように整備されている。
浅い段が刻まれたコンクリートに腰掛けると、昼間の日差しをたっぷり吸い込んでいてほくほくと温い。落ち着く。
目の前の海を囲むのは、京浜工業地帯の巨大な工場や大型サイロ。
青のりのような匂いがする。浜辺に寄せる波も緑色。
それでもざぶーんざぶーんという規則的な波の音と夕日、背後からけたたましく聞こえてくる蝉の声は気持ち良い組み合わせ。気温も程よい。
まめが犬だったら一緒に来たのになと惜しく思う。散歩ができるのは羨ましい。
この公園の存在を知ったのは、四国に養生避難する前日のこと。
人工的につくられた「良い景色」と、そこに集まる人達の健康的に見える取り合わせ。
伯父が気を利かせて連れてきてくれたのだけど、不調の自分には刺激が強く、早々に逃げ出してしまった。
今は気にならないというか、むしろ穏やかな人達の気配に心落ち着くので、やっぱり調子がいいのだと思う。
夕日を見ながら、このあと飲むビールのことを思ってニヤニヤし、祝日である明日はどこに行こうかとワクワクした。
数日前に不意にやってきた「好調な自分」を逃したくないなと心のどこかで気にしている。
昨日も今日も調子がいいけど、リズムが狂いそうな予定や出来事は潜んでいて、やだなぁ避けたいなぁと思う。
今を今として楽しめないなんて、人間生活の熟練度はまだまだ。