猫のいない朝は静か。
高松滞在三日目は、仏生山まで足を伸ばすことにしていた。隣室のIさん達に部屋の鍵を預けて早めに出る。
昨晩遅くまで飲んでいたらしい面々は寝床で気だるそうな様子。太陽光が滲みそう。
仏生山に着く。
初めてきたけれど縁深い場所で友人からよく話を聞いていた。
今回のご縁は大家さん先生。以前からお薦めいただいていた「Tamaruya 七草着物店」に来てみたかったのだ。
「美しく静かな着物」がテーマのお店で、淡い色や絶妙な柄の着物や帯が揃っているし、価格も高くない。直しやクリーニングもしてくれる。わたしもずっとウェブショップを見てきた。
実際、憧れのお店はとても素敵な場所だった。心躍る。芸術祭の初日はいいの? と、自分につっこみながら。
そもそも多くの着物は、一人ひとりに合わせて仕立てられているのでサイズがバラバラだ。
裄、身丈、身幅……無限にある組み合わせから、自分に合ったサイズと趣味と、用途に沿った柄と仕立てを探す冒険。あるいは合わせていく工夫。これが大変だけどすごく楽しい。
わたしはまったくの初心者なので、店主に丁寧に教えてもらいながら選んだ。
実際に袖を通すとさまざまな発見がある。嗜好についても、体型についても、望む心地よさについても。
自分では選ばないような色合わせ、珍しい柄の帯揚げ、よそゆきと普段着の使い分け。
たっぷり悩んで、二セット購入した。来月迎える三十八歳の前祝いとして奮発。
ずいぶん遠くにきたのに、大家さん先生やお茶の話題ができるのも嬉しかった。いいお店。また来たい。
その後は仏生山温泉に立ち寄って、フライト前までのんびり過ごす。
ぬる湯に浸かって中庭のモミジを眺める。蝉の抜け殻が風に揺られていてキラキラ光っていた。
戻ると関東は秋の風。急に涼しくて不思議な感じ。